かつては、医療法人の設立には、常勤の医師、または歯科医師が3人以上いないと設立することができませんでした。その後、昭和60年の改正からは、医師が1人または2人でも医療法人を設立することができるようになりました。
そして、節税、並びに相続や事業承継対策として、医療法人を設立するメリットを求めて、医師または親族だけでできるようになりました。
年々、医療法人の数は増えています。
ここでは、医療法人社団設立の方法や流れなどをお伝えします。
1. 医療法人社団とは?
医療法人社団とは、拠出によって設立される法人になります。
医療法人社団は、全国に5万以上あります。
医療法人の定義は、医療法で次のように定めています。
「病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設を開設しようとする社団又は財団 」(39条1項)
ここでいう社団とは、法人の実体による区分のことです。社団とは人の集まりに法人格を示した法人のことです。
医療法人社団の設立に際しては、出資者を社員として、社員総会(設立総会)の承認を得て取得します。
ちなみに、社団法人で「社員」とは、株式会社や医療機関で働いている従業員とは異なります。ちょうど株式会社の株主にあたる存在になります。「発起人」とも言います。
1-1. 基金拠出型法人
平成19年4月より、新しく許可される医療法人は「基金拠出型法人」となります。
現在設立できる医療法人は、資金や財産を提供しても医療法人に対する持ち分はありません。また、法人の解散時に残った剰余金は、都道府県知事に認可を得て、国や地方自治体、または他の医療法人に帰属することになります。
拠出の方法は2種類あります。
- 医療法人から拠出者への返還義務がある基金制度
- 医療法人から拠出者への返還義務がない拠出制度
1-2. 医療法人の特徴
民間の法人の代表的なものには、株式会社があります。
株式会社は、営利団体になります。一方、医療法人は、非営利団体です。
医療はかけがえのない生命や身体の安全の直接関わります。これらを営利企業にゆだねるのは適当ではないとされています。
そこで、昭和25(1950)年、医療事業の経営主体を法人化する法律ができました。
医療法により、「医療法人」という法人類型が創設されました。
この医療法では、営利目的の病院、診療所の開設を許可しないこととしています(7条5項)。このため、「医療法人は剰余金の配当をしてはならない」(54条)と厳格に規制されています。この非営利性が医療法人の最大の特徴です。
2. 医療法人社団の名称
医療法人の名称表記については、以下の通りです。
多くの医療機関の名称表記では、「医療法人○○会」と、「社団」又は「財団」の表記を省略している場合があります。
つまり、「医療法人○○会 = 医療法人社団○○会」ということです。
診療所などを開設している医療法人として、「一人(医師)医療法人」という表現がございます。しかし、これは通称であり、分類の名称ではありません。
通常の医療法人同様、その大半は、医療法人社団となっています。
3. 医療法人社団の目的とメリット
医療法人社団としての目的は、医療事業の経営を法人化することにより、次のような効果が期待できることにあります。
3-1. 医療施設・設備の永続
個人経営の場合、経営する医師や医師個人の相続により診療所は廃止され、また相続税を負担するため診療所の土地などを売却しなければならないことがあります。
ところが、医療法人となり医療施設を法人が所有することで、法人内の役員変更手続により後継者への事業承継を行うことができます。
また、医療施設については、相続税の負担を避けることができます。
3-2. 資本の集積
医療法人は、基金制度を利用することにより、医師や医師以外の人々の出資を得て、高度医療機器を導入し、医療の高度化を図ることができます。
ただし、基金の返還にかかる債権には利息を付けることはできません。
3-3. 事業用財産の分離
個人の家計から医療事業の財産が分離され、経営意識を高めることができます。
また、医師個人に適用される所得税は超過累進課税率であり、収益が上がるに伴い、税負担が大きくなります。
法人化することにより、医療事業に定率の法人税が適用されるため、給与その他の所得に適用される所得税と総合しても、節税となる場合があります。
4. 医療法人社団設立の流れ
医療法人の設立には、都道府県知事の認可が必要となります。
認可申請の受付は、年2回(春と秋)に行われるのが通常です。この時期に合わせて申請ができるように準備をする必要があります。
4-1. 設立準備
都道府県の説明会に参加し、設立認可申請書の作成方法などの説明を受けます。
都道府県のモデル定款に沿って、医療法人の定款案を作成します。
また、社員や拠出する財産、事業に必要な契約、負債の締結、承継、設立時役員(理事)、代表者(代表理事)を確定し、設立者で構成する設立総会を開催し、これらを承認します。
定款には、法人の名称、目的、診療所等の名称、開設場所、事務所の所在地、資産、会計、役員、社員総会、社員資格の得喪、解散、定款変更、公告方法などについての規定を設けます。
4-2. 設立準備設立認可申請書および添付書類の作成
申請書や添付書類はかなりの量となります。
都道府県のチェックリストと照らし合わせながら、記載例にしたがって作成します。
4-2-1. 医療法人社団設立認可の申請書類一覧
- 医療法人設立認可申請書
- 定款(寄附行為)
- 設立総会議事録
- 財産目録(財産目録明細書、不動産鑑定評価書、減価償却計算書、負債内訳書、負債説明資料、負債根拠書類、債務引継願)
- リース物件一覧表
- リース契約書
- リース引継承認願
- 役員及び社員の名簿
- 役員及び社員の履歴書(印鑑証明書、役員就任承諾書、管理者就任承諾書、管理者医師免許証)
- 設立趣意書
- 医療施設の概要(周辺の概略図、建物平面図)
- 不動産を賃貸する場合(設立代表者個人等から借りる場合:賃貸借契約書(案)、第三者から借りている場合:賃貸借契約書(写し)と覚書(原本))
- 不動産登記簿謄本
- 設立後2年間の事業計画
- 予算書(予算明細書、職員給与費内訳書)
- 設立代表者への委任状
- 設立代表者の原本証明
- 確定申告書
4-3. 仮受付、事前審査
申請書一式を都道府県の担当部署に提出します。
事前の審査を受け、補正や書類の追加などを行います。
4-4. 本申請、医療審議会の諮問
申請書一式が受理され、本受付となります。
都道府県の医療審議会にて諮問されます。
4-5. 設立認可書交付
審議会から1か月程度で、設立認可書が交付されます。
説明会参加から認可書交付まで、およそ半年ほどかかります。
4-6. 設立登記、登記の届出
設立認可後、2週間以内で、主たる事務所の所在地で設立の登記をします。これで医療法人が成立します。
設立登記後は、遅滞なく都道府県に登記した旨の届出を行います。
4-7. 保健所等への届出
医療法人設立後に、保健所に対して診療所等開設許可の申請を行います。
開設許可書を受領したした後、保健所に法人の診療所等開設届、及び個人の診療所廃止届を提出し、法人としての事業を開始します。
また、厚生局事務所に法人の診療所等開設届、及び個人の診療所廃止届を提出し、保険医療機関の指定を受けます。
入院施設がある場合には、病床設置の許可等を受ける必要があります。
その他、税務署等への税務に関する届出、社会保険事務所や労働基準監督署等への社会保険関係の届出が必要です。
5. 医療法人社団の設立要件
5-1. 人的要件
医療法人社団の設立には、定められた人的要件を満たさなければなりません。
5-1-1. 社員
医療法人社団は、「人」の集まりに法人格が与えられたものになります。この「人」を社員といいます。株式会社における株主のような存在で、従業員とは異なります。
医療法人社団の設立には、原則として3名以上の社員が必要になります。社員は自然人に限られ、一般社団法人のように医療法人や株式会社等は社員になれません。
5-1-2. 理事
医療法人には、原則として3名以上の理事を置く必要があります。
理事は、医療法人の役員として、その常務を処理します。医療法人の開設する管理者は、理事となるものとされています。
理事は自然人に限られます。社員や医師である必要はありませんが、被後見人や被保佐人などは理事になることはできません。
また、医療法人と取引関係にある企業の役員が理事となることもできません。
5-1-3. 理事長(代表理事)
医療法人では、医師である理事の中から、代表理事を1名選任する必要があります。
理事長は代表理事の略称になります。理事長は医療法人を代表し、その業務を総理します。
5-1-4. 監事
医療法人は、監事を1名以上置かなければなりません。
監事は医療法人の役員として、法人の財産状況と理事の業務執行に対する監査を行います。株式会社の監査と同じ役割です。
したがって、医療法人の理事や従業員が監事を兼ねることはできません。
監事は社員や医師である必要はありませんが、被後見人や被保佐人などは監事になることはできません。
また、理事の親族や医療法人に出資している社員、医療法人と取引関係、顧問関係にある者なども監事として適当でないものとされています。
5-2. 資産要件
医療法人社団の設立にあたり、開設する診療所等の業務を行うために必要な施設、設備、資金を拠出しなければなりません。
株式会社では資本金が1円から設立要件を満たしますが、医療法人社団では多額の拠出金が必要になります。
その拠出金は、定款で基金に関する事項を定めることにより、設立時の社員以外の方からの資金調達も可能です。
5-2-1. 不動産
医療法人の施設や設備は、法人が所有すること、あるいは長期間にわたる賃貸借契約より賃借することが必要です。
土地や建物を医療法人の理事長、またはその親族以外の者から賃借するときは、賃借権の登記をすることが望ましいです。
5-2-2. 資金
健康保険などの収入の入金に2か月程度かかるため、少なくとも2か月以上の運転資金の拠出が必要です。
5-2-3. 負債
拠出財産の取得時に発生した負債は、法人が引き継ぐことができます。
6. まとめ
医療法人設立の認可は、同一都道府県内に診療所がある場合には都道府県知事が管轄。複数の都道府県にわたって診療所がある場合には厚生労働大臣の管轄となります。
東京では、医療法人設立認可を受けるのに診療所開設の実績は要求されていません。その代わり、実績を要求しませんが、運転資金の蓄えを要求します。
具体的には、「初年度の年間支出予算の2か月分」の残高証明を提出することになります。
医療法人社団を設立するためには、東京都福祉健康局に認可が必要です。
ルール上は書類を提出し、申請することになりますが、担当部署に通うなど、行政の指導を受けながら進めていくという姿勢が大切なようです。
協会ルネサンス
吉岡岳彦